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  • 執筆者の写真田中亜弥

脂肪酸とは④〜トランス脂肪酸〜

更新日:2020年6月16日

 脂肪酸の第4弾は、トランス脂肪酸についてです。

 健康への悪影響を理由に、アメリカでは、2013年にトランス脂肪酸の使用を全面的に禁止する方針を固めました。世界保健機構(WHO)も2023年までに加工食品を製造するときにできるトランス脂肪酸を減らすよう呼びかけています。しかし、日本では表示さえ義務付けられておらず、規制もありません。では、そんなトランス脂肪酸がどんなものなのか、お話ししていきたいと思います。


1.トランス脂肪酸とは 

 トランス脂肪酸は、脂質を構成している成分で不飽和脂肪酸の一種です。食品に含まれるトランス脂肪酸には天然由来のものもありますが、問題となっているのが、部分水素添加油脂と呼ばれるトランス脂肪酸です。部分水素添加油脂は、飽和脂肪酸を製造するために人工的に水素を加えて(水素添加)、飽和脂肪酸になり切れなかった一部の不飽和脂肪酸の構造が変化したものです。水素添加すると、酸化による劣化がしにくくなり、食品として扱いやすくなります。ちなみに、飽和脂肪酸は融点(固体が液体になり始める温度)が高く、常温では固体、不飽和脂肪酸は融点が低く常温で液体ですが、トランス脂肪酸は常温で固体です。


2.トランス脂肪酸の摂取による弊害

(1)悪玉コレステロールの増加と善玉コレステロールの減少

 血中の悪玉(LDL)コレステロールが増加し、善玉(HDL)コレステロールが減少すると、動脈硬化や心臓疾患のリスクが高まります。

(2)心臓疾患のリスクの増加

 トランス脂肪酸の過剰摂取により、心臓の血管の動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を引き起こしやすくなります。

(3)肥満

 内臓脂肪量を増加する報告もあります。

(4)アレルギー性疾患

 喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー等を悪化させます。

(5)低出生体重(未熟児)、胎児喪失(流産・死産)、乳児への影響

 トランス脂肪酸は胎盤を通して、胎児に移行します。必須脂肪酸の代謝を妨げるので、妊産婦や胎児にも影響すると言われています。また、母乳にも移行するので、将来的に子供に何らかの障害が出る可能性もあります。


3.どうやってトランス脂肪酸が作られるのか?

(1)硬化油(加工油脂)の製造時  硬化油とは、マーガリン等、常温で液体である油に水素を添加して、固形・半固形化した油脂です。水素を添加する過程でトランス脂肪酸が発生します。この製造方法は、19世紀末にヨーロッパで開発され、第二次世界大戦によるバター不足のため、工業的な生産量が飛躍的に増えました。 (2)食用植物油の製造時  食用植物油とは、菜種や大豆、トウモロコシなどからつくられるサラダ油などのことです。食用植物油は油脂中の好ましくない臭い成分を脱臭して製品化されます。脱臭のため、200℃以上の高温で処理される際にトランス脂肪酸が生じます。ちなみに、家庭で調理する油の加熱温度(160℃〜180℃)ではほとんど生成しません。

(3)牛など(反芻動物)の胃の中

 牛肉の脂肪や乳脂肪には、少量のトランス脂肪酸が含まれます。これは牛の胃の中に生息する微生物によって生成される天然のトランス脂肪酸です。このような天然由来のトランス脂肪酸をどのように考えるかは、国により対応が異なっています。

 上記でも述べたように、(1)と(2)でできる人工的なトランス脂肪酸が問題とされています。


4.トランス脂肪酸を多く含む食材

 食品の裏に書かれている成分表示で言うと、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、食用植物油、加工油脂と表示されているものにトランス脂肪酸が含まれています。これらは安くて使いやすく、長く保存できて、美味しくなることから、食品メーカーが多く利用するようになりました。ショートニングは、バターやラードの代用品として広く利用されていて、菓子類には大抵入っており、サクサクとした触感を出します。また、業務用揚げ油にも、サクサク感を出すためと、酸化防止のために使用されています。

 日本人のトランス脂肪酸摂取量は、世界保健機関の目標(総エネルギー量の1%未満)を大きく下回っているので、大きく問題視されていませんが、やはり健康への影響を踏まえると、トランス脂肪酸の多い食品の過剰摂取を避け、バランス良い食事を心がけることをオススメします。


次回は、「サプリメント」についてです。お楽しみに!


<参考文献>

・『改訂新版いちばん詳しくて、わかりやすい!栄養の教科書』中島洋子監修(新星出版社

『パーソナルフィットネストレーナー 日本語版』東山暦監修(NESTA JAPAN事務局)

・『トランス脂肪酸問題についてのQ&A』(日本生活協同組合連合会

※なお、このブログは、タイトルに関する基本情報を出来るだけ端的に分かりやすく伝えるために、文献から多く引用している箇所もありますが、著作権を侵害する意図はありません。より詳しく知りたい方は上記の文献をぜひご覧ください。

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